「川下りは楽し・余談」   by  別宮 博一

36  <カヌーで前向きの人生を!>

  SLマニアと云う程ではないが、私はSLが好きである。何し

ろ、私が子供の頃は視野に入る機関車は総て蒸気機関車だった

のであるから、蒸気機関車に先ず懐かしさを感じてしまう。見

るからにエネルギッシュな力強さのみなぎった動輪の動きや騒音

や蒸気の音や汽笛など、どれを取っても実にいい。外から見て

エネルギーに満ち満ちているのは、本当はエネルギー効率の悪

さを露呈していると云うことなのであろうが、それこそが魅力の

根源とも言える。小学校も中学校も高等学校も伯備線沿いに

あったので、D51の重連等は毎日何回も目にしていた。小学生

の頃には客車と貨車を連結した混合列車と言うのもあった。

 祖父や母に連れられて備中高梁駅から汽車で岡山へ出掛け

ることが時にあった。私は何時も窓際に座って車窓の景色を見

ていたのである。エアコンなどある筈もなく、窓は手動で上下に

スライドさせて開閉可能で、開けておいて、トンネルの度に閉め

ていた。閉め遅れると車内に煙が立ちこめたものだ。煤煙がよ

く目に入って痛かったのを思い出す。

 倉敷で単線の伯備線が弧を描きながら山陽線の沢山の線路

の端に合流して行く車窓から見る光景は、私にとっては大いな

る感動で、いよいよ都会へ入っていく入口の様に感じていた。岡

山操車場では、ものすごい数の線路と貨車と蒸気機関車に圧

倒された。また蒸気機関車が沢山並んだ機関庫や転盤も垣間

見ることが出来るのも瞬時の楽しみであった。

 こんなことからか、私はSLが無くなった今も、車窓から景色

を見ているのが好きだ。特に先頭客車の最前部で進行方向を

見るのが好きである。私が一人の場合、電車が空いている時は

これを実践することにしている。

 先日、JR山陽線に乗る機会があった。空いていたので先頭客

車に行って見ると、私より一瞬先に私が狙っている場所に立った

同年輩と思しき紳士がいた。何と私と同じ事をやっているでは

ないか。座れば良いものを、年寄りが立って何時までも前方をじ

っと見ている光景は、傍らから眺めて見ると、何だかヘンで、滑

稽ですらあるが、何だか嬉しかったのは妙な感じであった。失礼

かと思ったが、後ろ姿なので写真を撮ってしまった

  
 この紳士が下車したので、私がその場所に立ったのは言うま

でもない。前方の景色を堪能するのは勿論であるが、ここに立っ

て必ず目に付くのは、運転士が行う指差し確認の姿である。狭

い空間の中で行う列車運転と言う責任重大な孤独な作業の中

で、指差し確認・口唱確認作業が几帳面に黙々と行われている

のは感動的ですらある。先日も医療事故が大きく報道されてい

たが、こういう一見単純な基本的な確認作業の積み重ねの重さ

が痛感される。

  
  
 ところで、カヌー仲間で親友の秋岡達郎氏は、「岡山カヌーク

ラブ」の会員であるが、「岡山県漕艇協会」の理事でもある。若

い頃はボート部で熱血漢として鳴らした男である。六十余才の

今も、市民レガッタ等で時に漕いでいるツワモノだ。彼は講演の

中で次の様に話したことがあると教えてくれたことがある。

 ≪ 私の人生の前半はボート一筋の「後ろ向きの人生」でした

が、カヌーをやるようになってからの後半は「前向きの人生」に変

わりました ≫  (蛇足ながら、ボートは進行方向に背を向けて漕ぎます)

 とすると、私は水上でも、陸上でも前向きの人生を志向して

歩んでいるということになるのだろうか?

                          (2009/02/22)




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