「川下りは楽し・余談」   by  別宮 博一

S+A<“美袋(みなぎ)”についての私見>
 
   写真@

 平成17年12月7日、文化審議会は国の登録有形文化財

に「JR伯備線美袋(みなぎ)駅駅舎」を登録するよう文化相に答

申したというニュースが流れた。

 私はここ数年毎週土曜日には年老いた母の居る備中高梁へ

岡山から車で行き来しているので、何時も美袋を通っている。し

かし、国道180号線から少し離れた旧道沿いのJR美袋駅へは

寄ったことは無かったので、早速12月8日(土)に初めて車で寄

ってみた。SL時代の国鉄伯備線に乗って美袋駅は何度も通り、

最近でも年に数回はJR伯備線を利用しており、無人駅になった

今でも見慣れた景色ではあるが、今やそのような価値ある建造

物になっているとは全く知らなかった。

       
  (写真・美袋駅舎ABCD)

 1925(大正14)年伯備線倉敷-美袋間が開通した時に建て

られたもので、入り口の建具をアルミサッシに変更した以外はほぼ

当初の姿のままなのだそうで、次々に古いものが消えて行く

中で、大正末期の官鉄標準駅舎の好例として評価されたのだ

そうだ。でも素人の私には、他の駅舎と何処が如何違うのか並

べて比べられないので、その場ではよくわからなかった。岡山県

内では既にJR津山線建部駅駅舎と旧片上鉄道吉ヶ原駅駅舎

が登録されている由である。

 
   (写真E山の崩落)

 さて、JR美袋駅から180号線に戻ろうとすると、正面の山

に大きな崩落の跡が見える。これは2001年3月12日、採石

場の山が約150メートルにわたって、東京ドーム1杯分以上の

土石が崩落し、高梁川右岸(西岸)の道路を埋めて、高梁川

まで入り込んだ跡である。操業中の人が3人生き埋めになり、2人

は遺体で発見されたが、1人は未だ埋ったままの筈だ。崩落の

時生き埋めになった1人が事務所へ携帯電話を掛けてきて「山

が崩れて来る!ワーッ!」と途切れてしまったと報じられていた

のが思い出される。崩落の後、私は高梁川の「下倉橋」の少し川

上の此処ら辺りを何度かカヌーで下っているが、急いで通り過ぎ

てしまっている。此処は川幅は広く、川中島様ではあるが右岸に

連続する河原が広く、流れは左岸沿いにあるので、平常水位で

は崩落部は高梁川の流れには全く関係無いが、此処ら辺りにさ

しかかると臆病者の私は何となくソワソワして、せき立てられて

しまうのである。

 
  (写真F水内橋)

 ところで、「美袋」と書いて「みなぎ」と読むのは如何にも奇異

な感じがする。私は若い頃から常々「ドウシテ?」と思っていた。

これに就いて私見を述べてみたい。

 崩落の位置から2キロ程川上に「水内(みのち)橋」というトラ

ス橋がある。余談になるが、交通事情の変化で橋の架け替えが

進み、県内にトラス橋(三角形を組み合わせた断面矩形の筒型

構造の橋と私は理解している)は2つしか残っておらず、この水

内橋は車が通れる県内唯一のトラス橋なのだそうだ。もう1つ

のトラス橋は後楽園-岡山城間の「月見橋」で、これは車は通れ

ない。「水内橋」や「月見橋」を渡る時やカヌーで下を通る時は、

この事に思いを馳せて頂きたいものである。

 
  (写真G月見橋)

 水内橋の右岸は水内(みのち)地区である。私のいう「石庭」

を含むJR備中広瀬駅辺りからの狭い「V字谷」を流れ下った高

梁川は、ここで山にぶつかり右に方向を変え、右岸側に大きな

水内河原を形成している。水内地区は右に曲がる高梁川の流

れの内側にあり、「水の内」である。これが地名の由来と思える。

「み」というのは「水」であるとすると、「みなぎ」の「み」は「水」な

のだろうと思う。美袋は地形的に見ると、高梁川の右や左から

流れ込む支流があって扇状地が広がり、水内河原辺りから、右

岸だったり左岸だったりするが、高梁川岸の山が遠のき開けた景

色になっている。今の様には堤防が整備されていない時代には、

長い年月のタイム・スパンの中では台風や長雨で激しい洪水が

繰り返されていたであろう。高梁市・落合で増水した高梁川と

成羽川が合流し、激流となって以下の狭小部を流れ下り、美袋

の地で堤から水は扇状地に溢れ出て急に流れが幅広くなり、主

流の脇に大きな「エディー」が「水袋」の様に出現しており、「流れ

が和(な)ぐ」、即ち「水が和(な)ぐ」という光景が想像される。

「和ぐ」は「凪ぐ」でも良いのであろう。これが「水(み)和(な)ぎ」

で、「みなぎ」の地名の由来ではないかと私は密かに思っている

のである。川の流れの様態の「みなぎ」に、光景・形態としての

「水袋」の文字を充て、「美」は格好良くした当て字であろう。難

儀なのは「袋」であるが、前述の様に「水袋」などと「袋」の字を持

ち出して、カヌーする者の視点での「エディー」などと気取ってい

るのが、上出来だと思っている。

   
 (写真H「石庭」辺りのV字谷、I下倉橋から川上を見る)




                       (2007/12/16)




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